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乃木中将の覚悟

新聞紙の伝ふる所に拠れば乃木陸軍中将に二子あり長子は第一師団の歩兵第一連隊に属し南山の戦に名誉の戦死を遂げたる中尉勝典氏にして次子は出征中になる同師団歩兵第十五連隊の少尉保典氏なり、欺く二子とも戦場に赴きたる其上に中将も亦、或る重大なる任務を帯びて(註、第三軍の司令官として)此程出征の途に上るに臨み適々長男戦死の報を得たるに中将は家人を顧み此戦役には父子三人揃って戦死を遂ぐるの覚悟なれば、此際葬儀を営むことは暫く見合せ、他日三人の遺骸を同時に葬送する時あるを待つ可しと命じたりと云ふ。

今度の戦役に臨む我軍人の覚悟は、何人も同様にして一人として屍を馬革に裏むの心掛けあらざるものとてなければ、忠実勇敢武将の模範とも見るべき人が欺る勇しき言葉を残して出征したるも固より当然の次第とは申しながら全家の骨肉を挙げて国事に殉ぜんとする覚悟の程は実に天晴美談にして、恰も歴史上稀なる事実を今日に実現したるの感なき得ず苟も一軍の指揮に任ずる将軍にして欺る覚悟を以て戦場に向ふと聞くときは左なくだに強勢なる我軍の士気はますます興奮し鋭鋒の向ふ所、如何なる金城鉄壁も物の数ならず、比類なき武功を樹てゝ世界の耳目を聳動す可きは疑を容れず、我輩は国民一般と共に、此の任務に、重大なる望みを属するものなり。

    

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